■大井川鐵道

2019.7.7 UP

碧電開業以来、「私鉄の機関車が牽く旅客列車」というテーマを掲げてきましたが、「大物」、大井川鐵道が未掲載でした。それは、題材が豊富で、なかなか着手できなかったからというのがその理由です。(社名の表示に関するお断り)

●取り扱いが複雑になりますが・・・

当社の特徴は何といってもSL列車にあります。しかし、機関車は近年運転されている「トーマス」、「ジェームス」を除けば基本的に国鉄で現役として運行されてきた当時の姿を維持しています。客車についても同じ姿勢です。これらのSLは「私鉄の機関車」には違いありませんが、国鉄時代を保存したものと捉えると異質なものと感じられます。この点を踏まえ、主に当社独自の電気機関車が牽く列車を中心に扱います。
 また、他社のページでは訪問時に撮った電車や気動車なども掲載してきました。当社でも同様に定期列車用の電車を扱うことには変わりはありません。ただし、過去の車両まで入れるとたいへん多くの形式があり、これらを網羅的に扱ってしまうと「私鉄の機関車が牽く」という主題から逸れてしまいます。近年のものについては他のサイト、ブログなどで豊富に扱われていますので、引退してから年月の経ったものを扱っていきます。電車までを1ページにすると写真が多くなりすぎてしまうため、電車編は後日とします。
 SL列車については前記した理由により、日常見られるものは扱いません。ただし、過去に行われていた国鉄線から乗り入れた客車について、記録できたものは掲載します
 なお、井川線の定期列車については紹介できるだけの写真があるとは言えない状況にありますので、機会を改めます。

●電気機関車が牽く列車

当社においては蒸気機関車が主役で、電気機関車は脇役と言える存在ですが、自社発注の機関車のほか、他社(工場の専用線を含む)から導入された機関車も走っており、その経歴は多彩なものとなっています。
 当初、本ページは2019.5の公開を目標に準備を進めていましたが、諸般の事情で計画が遅れていました。そんな中、当ページの価値を上げる列車が走ることになりました。SLの検査が重なり、トーマス改装機(C11227)以外の稼働機がC5644のみになっていたところ、同機に不具合が発生。基本的には茶色塗装の旧型客車を使用する急行「かわね路」がEL牽引で運行されることになりました。しかも、「トーマス」の運転日には元西武E31形重連が起用されました。
 SLのピンチのみならず、ELもED501とE102が検査中で、複数の条件が重なって実現した組み合わせでした。

(新作動画のご案内)
動画の閲覧はこちらから 写真を掲載している「いぶき501号デビュー記念列車」の動画を公開しました。サムネイルからご覧いただけます。



(注) 拡大画像はJava Script を使用しています。セキュリティーの設定次第では正常に動作しないことがあります。

長距離鈍行2019
新金谷−千頭を3往復する「長距離鈍行」。何とか桜との組み合わせが叶った。

2019年は寒の戻りで桜のもちがよく、「長距離鈍行列車」と桜との組み合わせが期待できました。この年は東北本線の青森行きをイメージした列車で、3往復目の終着間際には青函連絡船の乗換案内放送や乗船名簿の用紙が配布されるという粋な演出があったとのことです。

臨時EL急行
ELが牽く列車も商品化されるようになった。E102が牽くEL急行

SL列車の運行が始まって以来、ELは後補機としてあくまでも裏方の存在でした。しかし、時代が変わり、全国的に客車列車の運行が希少なものになると、当社のELの評価が上昇してきました。SLの故障でELが代理運行されるのはハズレであったものが、EL牽引であることをあらかじめ周知したうえで運転される列車が走るようになりました。近年ではEL急行料金が設定され、SLには関心がないが、ELならば乗車、撮影をしたいという人までいます。

長距離鈍行2016
「長距離鈍行ツアー」2往復目の復路

好評で毎年定員を超える応募がある「長距離鈍行」ツアーは2016年4月に第1回目が実施されました。「トーマス」が家族連れ客向けの企画であるのに対して、「長距離鈍行」や「SLナイトトレイン」はよりディープなファン向けの企画と言えましょう。
 機関車の汽笛がタイフォンではぶち壊しになるため、ホイッスル付のE101号が指名されたほか、客車もレトロ感が楽しめるナンバーのものが使用されました。

いぶき501号デビュー記念列車
工場の専用線で使われていた電気機関車が客車列車を牽く。

大阪セメント伊吹工場専用線で使用されていた2両のELは同線の廃止に伴って当社へ譲渡されました。2000.3.18にはデビュー記念列車が運転されましたが、中部国際空港島の埋め立て土砂輸送を行う三岐鉄道へ貸し出される話が急浮上しました。私もその話を聞いた時はたいへん驚きました。
 僅か2ヶ月後には三岐鉄道へ向けて陸送されました。502号は同社へ売却されることになりましたが、大井川鉄道では使われた実績があるのでしょうか?

返却後のED501号
三岐鉄道から返却後は白帯が消され、両側のヘッドライトが2灯式に

土砂輸送の終了後、501号は2003.3に大井川鐵道へ返却されました。三岐鉄道ではヘッドライトが暗いことが問題となり、2灯式のものに取り換えられました。ただし、三岐線では501+502が常時連結された状態のため、連結面側のライトはそのままでした。そして、501号の返却時に502号に取り付いていた2灯式ライトが501号に移設されました。
 大井川鐵道においてもライトが明るいほうがよいという判断かと思いますが、後押し運用が主体で、ヘッドライトが点灯する機会が少ないのが実状です。

EL重連運転
2017年の「SLフェスタ」で運転されたEL重連の臨時急行

2017年3月の「SLフェスタ」では、SL重連列車の前にEL急行が運転され、E102+ED501の重連となりました。ありそうでなかったものです。

E103
ED501号デビュー記念列車の後部に連結されたE103は日立製

E10形は3両が製造されました。E101、102は三菱重工、E103は日立製です。103号はいったん岳南鉄道に移籍しましたが、同社の貨物輸送量が減少してきた一方、大井川鉄道ではSL列車の増発によって補機の需要が増大していたため、古巣に戻ってきたという経歴を持っています。
 ED501号のデビュー記念列車の復路、後部に連結された同機を撮影したのが唯一の写真になりました。

E34が牽く臨時EL急行
電車不足のため客車列車となった臨時急行

2010年に西武鉄道から譲渡されたものです。完全な新造ではなく、台車は国鉄80系電車のDT20Aを使用しています。その80系は同系では飯田線に最後まで残っていたものであることはよく知られています。長年の留置を経てようやく整備され、2017年、E34号から営業運転に投入されています。
 写真の列車はSL列車「トーマス」の運転日に増発される臨時急行に使用する電車が検査の遅れで不足したため、E31形の客車列車で運転されたものです。電車の代替として客車列車が走るのは、今となっては当社ならではのことと言えるでしょう。

桜ダイヤ時の臨時急行
ブルートレイン「さくら」のヘッドマーク付のE34号

3月下旬から4月上旬にかけての桜ダイヤ時には主に「トーマス」用のオレンジ色の客車を使用した臨時列車が新金谷−家山で設定さます。午前中の2往復は家山方がSL、新金谷方がE31形。午後は機関車の前後が入れ替わります。ELが先頭の列車の利用者は僅かですが、回送ではなく、EL急行料金を支払えば乗車できます。新たな楽しみが創出されたのはありがたいことです。2019年のシーズンには途中からブルートレイン「さくら」のヘッドマークが取り付けられるようになりました。EF65Pに似た形状のためか、とてもよく似合っていると思います。

ELとSLの協調運転
福用−大和田の勾配区間は後部のSLも力行

家山以遠へ行くSL列車の後押しでE31形が使用されるのは客車6両までのようです。しかし、家山折り返しとなる「さくら臨」は客車7両でもE31形が使用されます。午後の家山行はE31が先頭に立ちますが、客車7両+SLを単機で牽いて上り勾配を超えることはできないようです。その結果、勾配区間では後部に連結されたSLも力行し、ELとSLの協調運転となります。
 E31形は3両ありますが、写真のE34号ばかりが使われている印象があります。E32、E33はATSが片側にしかないなど、使い勝手に制約があるためとのことです。

E31形重連が牽く「ELかわね路号」
E33+E34の重連が茶色の旧型客車6両を牽引した「ELかわね路」

2019.6.18、トーマス以外ではC5644しか使えないところへ同機に不具合が発生しました。修理は簡単ではなさそうで、7.5まで「かわね路」をEL牽引に振り替えることが発表されました。6.22からの土日は「トーマス」が運転を開始しましたが、客車7両となる「トーマス」の後押しにはE10(45t)またはED500(いぶき:50t)を充当する必要がある模様です。しかし、検査の関係で使える45、50トン機はE101号機のみです。その結果、土日の「かわね路」はE31形重連の牽引となりました。
 元西武機重連が堂々国鉄旧型客車6連を牽くのは1996年にE851形がさよなら運転で12系客車を牽いた時のようなインパクトがありました。

●蒸気機関車

当社は蒸気機関車の動態保存のパイオニアと言われています。1970年に2109号を導入して走らせたのが始まりですが、井川線千頭−川根両国の側線を利用した短区間だけのものでした。その後、もっと長い距離を走らせてほしいという各方面からの声を受けて、1976年には金谷−千頭間でC11227号による「かわね路号」の運転が始まりました。
 冒頭の掲載方針にも示したように、日常見られる国鉄時代を維持した列車については原則として割愛します。

SL動態保存はこの機関車から
明治時代にイギリスから輸入された2109号は大井川鉄道におけるSL動態保存のパイオニア

西濃鉄道で使用されていた2100形が廃車となり、それを買い取って整備したのは1970年のことです。同系車は「B6」と総称され、イギリス製のほか、ドイツ製、アメリカ製のものがあり、大量に輸入されたものです。

国鉄静岡局のお座敷客車(1)
12系お座敷客車「いこい」が入線

1979年の夏季から国鉄名古屋鉄道管理局のスロ81系お座敷車が乗り入れるようになりました。その後、静岡局のお座敷客車も乗り入れるようになりました。私は1982年8月12日、静岡局車の運転日に訪問していますが、既に客車は12系「いこい」に置き換えられていました。訪問の10日ほど前、台風10号の襲来により東海道本線の富士川橋梁(下り線)が流失。当社でも下泉−駿河徳山が不通となりました。それでも運休にはならず、下泉まで運転。整備のためいったん新金谷まで回送される措置が取られました。

国鉄静岡局のお座敷客車(2)
12系お座敷客車「いこい」は新金谷へ戻って整備後、再び下泉に回送

22.9.4付「構内放送」に掲載した画像を常設化します。
 101列車が新金谷を出る少し前、「いこい」が回送で戻って来ました。予定を変更して、車庫で下泉への回送列車の時間をお聞きしました。
 下泉まで2往復。大井川鉄道さんにしてみれば、同じ収入を得るためにほぼ2倍の距離を走らせたことになります。夏休みのかき入れ時ということもあったのでしょう。地元の観光業を守ろうとする熱意が感じられました。
 静岡県内で被災した国鉄さんも大井川さんも頑張っていました。

1回限りだったサロンエクスプレス
1回限りの「サロンエクスプレス東京」入線「鉄道ジャーナル誌創刊200号ミステリー列車」

1983.9.23、鉄道ジャーナル誌の創刊200号を記念したミステリー列車が運転されました。客車は「サロンエクスプレス東京」で、当時はまだ2両が未完成で、5両編成でした。ミステリー列車のため、行き先は公表されていませんでしたが、情報通の方から大井川鉄道へ乗り入れ、C11が牽引することを教えていただくことができました。

千頭−川根両国間で運転された1275号
動態保存されていた頃の1275号

ドイツコッペル社製の小型SLで、日本ステンレス直江津工場の専用線で使われていたものです。千頭−川根両国の側線で動態保存されていましたが、1989.11で運転を終了しました。
 当機に車籍はなかったようで、鉄道営業法に基づく「列車」ではなく、線路を含めて遊園地の乗り物と同様の取り扱いだったとみられます。現在は新金谷の「プラザロコ」で屋内展示されています。

タイ時代の塗装で運転されるC5644
タイ時代の塗装で運転されたC5644

戦時中に供出され、1979年に日本に帰国したC5644は1980年1月から稼働を開始しました。タイ、ミャンマーへ渡った90両のうち、帰国できたのは僅か2両。そのうちの1両が再び国内で復活したのは感動的でした。
 2000年に大修理を受けたものの、ボイラーの傷みが激しく、継続的な運転が困難となりました。再整備にあたっては養老ランドから搬入されていたC12208号のボイラーに乗せ換えられることになりました。2007年タイ国との修好120周年を記念してタイ時代の塗装に改められました。タイ塗装は1979年の帰国時以来のことです。(2010年、国鉄仕様に改修)

きかんしゃトーマス
福用お立ち台をゆく「トーマス」

2012年に起こった関越道高速ツアーバス事故により、運転手が1日に運転できる距離に上限が設けられました。その結果、当社のSL列車に乗車するバスツアーは運転手を2名乗車させなければならないケースが増えました。その影響でツアーの設定自体が大幅に減ってしまい、当社の経営に大きな打撃となりました。
 打開策の一つとして、アニメ「きかんしゃトーマス」の権利元の承認を受け、同アニメのキャラクターを実物のSLに再現した列車の運転を2014年から開始しました。機関車、客車のエクステリアはできる限りオリジナルを再現するように努められました。企画は大人気を呼び、大井川鐵道がどこにあるかも知らずに予約を入れた人がいたと言われています。

●E101号機の台車交換

E101号は1949年に三菱重工で製造された自社発注機です。同年に同じく三菱重工で製造された神戸電鉄の701(旧ED2001)は急勾配対応の装備があるものの、実質上同型機と言ってもよいものです。その701号が廃車になった後、台車がE101号に転用されることになりました。大井川のE101号はSL列車の後押しとして相当な頻度で運転されているのに対して、事業用として使われてきた神鉄の701は動く機会は少なく、同年製造の台車とはいえ、傷み具合が違っていたのかも知れません。

台車交換前のE101号
台車交換前のE101号

日頃の撮影ではSLを中心に撮るため、後押しのE10形を撮る機会があまりありません。幸いにも台車交換前のE101号の写真が出てきました。
 基本的な構造は神戸電鉄の701号と同一のようで、差異は細部にとどまっています。台車はこちら

神鉄701号のフォトラン
会員制のフォトランで三田線の道場南口まで走行した701

2010年秋、神戸電鉄701号の引退が決まり、会員制のフォトランが行われました。ツテを通じてお誘いをいただくことができました。個人で運転情報を入手するのは困難な機関車であったこともあり、たいへん貴重なチャンスをいただきました。
 反対側はホッパー車に運転台を取り付けたたいへん個性的なもので、クホ761号を名乗りました。台車はこちら

台車交換後のE101号
E101号が牽く長距離鈍行2往復目の復路

こちらは台車交換後のE101号です。一部のパーツが外されていますが、上端梁のボルトの並びは神戸電鉄701号のものと一致しています。同車が履いていた台車であることに矛盾はありません。
 台車はこちら

●社名の表記について

当社は2000.10に「大井川鉄道」から「大井川鐵道」に変更されましたが、「鉄道」の記載も残しています。これは、「大井川鉄道」で検索をされる方が少なからずいらっしゃることを想定したものです。近年、検索エンジンは高度化しており、旧字体でも新字体でも検索結果は変わらないのかもしれません。しかし、碧電では検索対策として意図的に複数の表現を混在させている箇所が随所にあります。この方針を今後も踏襲します。(2020.07.26)

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